IAMAS Graduate Interviews

INTERVIEW 007 【前編】

INTERVIEWER 小林茂 IAMAS教授
#2018#BIOART#BIOLABO#BIOTECHNOLOGY#SHIGERU KOBAYASHI

GRADUATE

石塚千晃

アーティスト・株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

バイオテクノロジーをカルチャーにしたい

バイオテクノロジーとクリエイティブをつなぎ、新たな視点を生み出すプラットホーム「BioClub」。2016年よりBioClubを運営する石塚千晃さんは、クラブミュージックのシステムを参考にしながら、この実験的な場を育ててきました。
今回は、デジタルファブリケーションを活用し、多様なスキルや視点、経験を持つ人々が共にイノベーションを創出するための方法論を探求してきた小林茂教授が、BioClubのめざす未来について伺いました。

現象を生み出すバイオのプラットホーム

小林:まずは、今どのような活動をされているのか聞かせてください。

石塚:今は株式会社ロフトワークに所属し、2016年の12月からBioClubというバイオテクノロジーに関するプラットホームを運営しています。

小林:BioClubにはどのような経緯で携わることになったのですか。

石塚:BioClub自体は2015年に発足していました。BCLのGeorg Tremmel(ゲオルク・トレメル)さん、福原志保さんと弊社の林千晶がファウンダーとなり、バイオの多様性や可能性を考え、実践する場を提供しようと、FabCafeMTRL内にバイオラボを作ったのが始まりです。私はゲオルクに誘われて参加しました。

小林:BioClubはどのような活動をしているコミュニティですか。

石塚:毎週火曜日にウィークリーミーティングを開催しています。これは誰もが参加できるオープンミーティングで、BioClubが今後何をしていきたいかを話し合ったり、ゲストを招いて活動報告をしてもらっています。また月に1度を目標に、トークやワークショップなどイベントを企画し、実施しています。

毎週火曜日に行なわれているオープンミーティング

小林:毎週火曜日のミーティングにはどのような方が参加されているのですか。

石塚:BioClubに帰属意識を持っていて、毎回参加するメンバーは、まだ少ないのですが5人ほどいます。ゲストを呼んでトークショーを行なう場合には、それに興味のある新規の方も来ます。なるべくそういう人たちを巻き込んで、「今後も何か一緒にやろうよ」という関係性づくりを心掛けています。

小林:特に入会手続きはなく、メンバーも固定されている訳ではないのですね。

石塚:そうですね。メンバーとかコミュニティと言うと組織っぽいので、プラットホームという呼び方が今はしっくりくる気がします。リーダーがいて成り立つ組織というよりは、本当に興味があってやりたい人を支援し、こちらも一緒に巻き込まれていくような、ある意味で現象をつくるイメージで運用しています。
「これをやりたい」「こういうことにチャレンジしたい」という人を募集する一方で、こういうことをやれる場なんだと想像を持てるようなイベントやワークショプを企画し、それに惹かれてやってくる人と一緒に、次のフェーズに行きたいなと考えています。

小林:これまでに企画したイベントにはどんなものがありますか。

石塚:発足当時から毎年、BioHack Academyという10週間にわたるバイオの基礎を学ぶレクシャーシリーズを開催しています。オランダのWaag Societyというバイオテクノロジーとクリエイティブを繋いでいくようなことをやっている団体のレクチャーを借りる形で実施しています。
レクチャーの最後に、10週間で学んだテクノロジーや知識を使って、自分のプロジェクトに取り組むという課題があります。その課題がその後の自分のライフワークになる場合もありますし、元々持っていた自分のライフワークをBioHack Academyの課題に持ち込む人もいて、それをBioClubで継続していく方も多いです。

BioClubで毎年開講しているレクチャーシリーズ BioHack Academy

小林:レクチャーを終えた後、参加者の一部がBioClubに残っていくというサイクルになっているのですね。

石塚:そうですね。例えば、今年のBioHack Academyの卒業生のヨハンさんは、元々きのこの菌糸で3Dプリンターを作るというおもしろい考えを持っていました。以前からBioClub にも時々来られていたのですが、本格的に取り組みたいとBioHack Academyに参加し、今はキノコを思い通りの形に固めて形を作ることに取り組んでいるようです。
ヨハンさんもそうですが、プロダクトやサービスにするという何かゴールを持っていて、それを実行する場所としてBioClubを使うというよりは、まだ何ができるか分からないけど、それを試す場としてBioClubを捉えているような人が多いような気がします。

小林:なるほど。施設を使いにくるのとは違って、そのもっと手前の段階でどんな可能性があるのか探りにくるみたいな感じなんですかね。

石塚:BioClubにいる人との交流や、そこでされている議論や空気感を求めてきている方が多いと感じます。逆に私たちとしても、今はそれしか提供できないところもありますね。
バイオラボもオープンラボという形で多様な人が使ってもらって、むしろ使い方を開発していくような場所にしていきたいなと考えています。運営する側と使う側をあまり分けたくないというか。そこはあくまでフラットに、使っている人も運用に回るときもあるし、運用している人が急に「作品を作りたい!」と言って、ラボを使うこともある。ヒエラルキーも役割も、フレキシブルにできないかと考えてところです。

文脈の外から、
いかにバイオのカルチャーを作るか

小林:バイオラボを運用するにあたり、どこかモデルにしているところがあるのですか。

石塚: 最初はYCAMやWaag Societyなど、BioClubに近いプラットホームの取り組み方や運用方法を参考にしようと見学に行きました。でも私たちは学術機関でも文化施設でもなく、企業なので、そもそもストラテジーが全く違っていて、同じようにやればうまくいくわけではありません。
だから、強いて言えば、全然違うと思われるかもしれないですが、音楽イベントやパーティのような音楽の世界のシステムを参考にしています。これまでは、好きなDJの音楽を聞きに行くためにお金を払うというシステムだったのが、今は複数の演者がいて、順番なども編集されたパーティにお金を払う方向に変わってきています。

小林:演者ではなく、パーティにお金を払うという方向に変わってきているんですね。

石塚:最近のパーティはノマド的で、場所も決まっていません。パーティのプロモーターが別のパーティにお客さんとして行くこともあるし、プロモーターがDJをする場合もあって役割もマルチです。そういう状況が今の日本のクラブカルチャーを多様でおもしろいものにしていて、予測不可能な次の未来に繋がっているように感じていて、それをバイオでもできないかと模索しています。

小林:どのように参考にできそうですか?

石塚:私がよく行く音楽のイベントの場合、音を聞きにいくのはもちろんですけど、出会ったり、会話したりするコミュニケーションの場でもあるんですよ。

小林:なるほど。

石塚:私たちが渋谷という立地でどういうことができるかを考えたときに、ファブカフェ的な考えの方が私たちの強みが出るかなと思います。ファブカフェの前にあったファブラボは、ファブラボ憲章やステイトメントがあって、元々グローバルのファブラボの思想を継承してやるものという前提があった。でもファブカフェはその文脈の外から、あらためて「ファブとは何か」を考えられる場所だと思うんです。
ファブカフェは、企業として利益を上げる必要があったので、ある意味敷居を下げている。だから「3Dプリンターをどうやって使ったらいいですか」という方が来ることもあります。そうした中で、ファブという文脈の外からファブに触れた人が、全く予測しないものを作ったり、繋げたりする可能性がある。ロフトワークとしては、そこにかけてるところがあると思うんですね。

小林:ファブカフェが2012年の3月にできて、その直後に来たときに、初めてレーザーカッターを見たんだろうなという人がたくさん群がって何かを作っている姿を見て、「そうか、こういうことが起きるということなんだな」と思ったことを覚えています。

石塚:バイオテクノロジーは産業やアカデミックなガチガチのルールによって生み出されているものなので、全く別の方法を考え出すことは、産業やアカデミズムの中にいる人間には難しい。
例えば、ナム・ジュン・パイクは、普通はニュースなどを見るためのものであるテレビを全く別のことに使った。あの作品を見た観客は、テレビや機械が持っている生々しさとか、ああいうものを作り出した人間の生々しさを感じていると思うし、それはナム・ジュン・パイクがテレビの正当ではない使い方をしなければ表れない現象だと思うんです。
そうした“誤読”は外の人間の方が効率よく生み出せると思うし、そのためには外の人間がおもしろいと感じて入ってくることのできる土壌を作らなければいけない。今はその土壌を耕している段階だから、クラブミュージッックなど、私自身が入りたいと思ったり、おもしろい、気持ちいいと思うものから学んだ方がいいかなと思っています。

小林:今の話を聞いて、SXSW(サウスバイ・サウスウェスト)に最初に行ったときのことを思い出しました。同時に100個くらいのセッションがある中で、「これおもしろそう」という嗅覚で選ぶしかないというときに、たまたま隣にいた人っていうのは、要するにその人も同じように選んできているから、待っている間とか終わった後に話をすると、すごく繋がるのが早い。この早さはおそらく他のところでは起きないことで、お互いが嗅覚をもって集まっているからこそ繋がれるというのはあるなと感じました。

石塚:まさにそうだと思います。私が引きつけられていく場所というのは、確実に私と似たような人が引きつけられている。SXSWの主催者が、小林先生と先生の隣にいた人がおもしろい出会い方をすることを意識して作っているかは分からないですけど、実際にそういうことが生まれている。日本にいて、限られたツールだけを使っていたら出会えない人たちと、そうした場に行くことで出会えることはすごく大きな価値だと思います。
ただ、それを意図的に起こそうと狙った装置やフィルターを作ってしまうと、予想通りの人しか来ないので、それはしたくない。バイオはまだ黎明期なので、もっとカオスで、生態系とかエコシステムみたいなことに近いオーガニックな場が作れたらと思いますね。

 

取材:20180423 BioClub

編集・写真:山田智子

PROFILE

GRADUATE

石塚千晃

アーティスト・株式会社ロフトワーク クリエイティブディレクター

情報科学芸術大学院大学[IAMAS]卒業後、産学連携のプロジェクトマネジメントを経て2016年12月よりロフトワークに参加。BioClubのディレクターとしてバイオ分野の可能性におけるオープンな議論と実験の場を運営している。アーティストとして、生命と人間とのインタラクションやボーダーに着目した作品を制作・発表を続けている。東京在住。
http://chiakiishizuka.tumblr.com/about

INTERVIEWER

小林茂

IAMAS教授

博士(メディアデザイン学・慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科)。1993年より電子楽器メーカーに勤務した後、2004年よりIAMAS。Arduino Fioなどのツールキット開発に加えて、オープンソースハードウェアやデジタルファブリケーションを活用し、多様なスキル、視点、経験を持つ人々が協働でイノベーション創出に挑戦するための方法論を探求。著書に『Prototyping Lab 第2版』『アイデアスケッチ—アイデアを〈醸成〉するためのワークショップ実践ガイド』など。
http://www.iamas.ac.jp/faculty/shigeru_kobayashi/